広告依存の購買設計と、コンテンツを土台に置く考え方
売上を伸ばしたいとき、まず検討する施策が「広告出稿」というブランドは少なくありません。オウンドメディアやブログを持たないECサイトの多くは、検索広告やSNS広告といった運用型広告を新規獲得の主戦力にしています。
運用型広告による新規獲得の単価と難易度は、市場競争の激化にともなって年々右肩上がりの傾向にあり、この傾向は続いていくと見られています。
顧客獲得単価(CPA)が上がり続けると、1人の顧客から得られる生涯価値(LTV)とのバランスが崩れ、広告を出せば出すほど利益が薄くなるという構造に陥ります。
ここで強調したいのは、「広告をやめるべきだ」という話ではありません。
広告は新規接点をつくる手段として今後も有効であり、ECストアはやり続けるべき施策です。論点は、広告だけに新規獲得を委ねず、広告の効率そのものを底上げする土台としてコンテンツを設計できているかという点にあります。
広告で連れてきた見込み客が、その後の情報接触でどれだけスムーズに理解・信頼・購入まで進めるかは、広告費とは別の要素、つまりコンテンツの設計によって決まります。
認知→理解→信頼→行動、4段階ファネルで「効きどころ」を診断する
広告の効率を上げる土台としてコンテンツを設計するとき、まず必要なのは「今、自社のどの段階でユーザーが離脱しているか」を診断することです。ここでは購買行動を、認知・理解・信頼・行動の4段階に分けて考えます。
この4段階は、上から下に向かうほど対象者の数が絞られていくファネル構造になっています。認知の段階では多くの人にブランドの存在が届きますが、行動(購入)まで進む人はそのごく一部です。どの段階で人数が大きく減っているかを見れば、投資すべきコンテンツの種類が見えてきます。
D2C購買ファネルとコンテンツの配置
それぞれの段階で、読者が置かれている状態と、そこで効きやすいコンテンツの種類は異なります。
次の章で、段階ごとの対応関係とD2C・ECでよくある欠落を具体的に見ていきます。
各段階で効くコンテンツと、D2C・ECでよくある欠落
| 段階 | 読者の状態 | 効くコンテンツ | D2C・ECでよくある欠落 |
|---|---|---|---|
| 認知 | まだブランドを知らない | SNS発信、検索流入記事、世界観コンテンツ | 認知施策を広告のみに頼り、検索流入の記事資産がない |
| 理解 | 知ったが違いが分からない | 商品比較、使い方解説、成分・製法の説明 | 商品ページの説明が仕様の羅列にとどまる |
| 信頼 | 良さそうだが不安がある | お客様の声、レビュー、作り手の一次情報 | レビューを集める仕組みや作り手情報の発信がない |
| 行動 | 買う直前で迷っている | 購入導線、FAQ、初回特典、カゴ落ち対策 | FAQが整備されず、初回購入のハードルが高い |
この表を自社に当てはめると、多くの場合、どこか1つの段階に投資が偏っていることに気づきます。たとえば広告出稿とSNS運用に力を入れているのに商品ページの説明が薄いブランドは、認知は取れても理解の段階で離脱が起きやすくなります。
味噌のような発酵食品は、原材料や製法、保存方法など説明を要する要素が多い商品です。当社(手のひらサイズの味噌専門店)で味噌を扱う中でも、認知の広告だけで購入まで一気に進むケースは多くなく、使い方や違いを説明するコンテンツが薄いと、理解の段階で離脱が起きやすいという実感があります。
商品ページ・ブランドストーリー・記事の役割分担
コンテンツ施策を考えるとき、記事・ブランドストーリー・商品ページという3種類の接点を、同じ役割だと捉えてしまう失敗がよく起こります。しかし、この3つはファネルの中で担う役割が異なります。
- 記事(オウンドメディア): 認知と理解の入口です。検索流入やSNS経由で、まだブランドを知らない人・違いが分からない人に情報を届ける役割を持ちます。
- ブランドストーリー: 信頼を醸成する役割です。作り手の背景や製造の裏側を伝えることで、「良さそうだが不安」という段階を越える材料になります。
- 商品ページ: 行動(購入)に進めるための最終的な接点です。購入導線・FAQ・レビュー配置など、迷いを最小化する設計が求められます。
あるコスメD2Cブランドでは、情報のすべてを商品ページ1枚に詰め込み、記事もブランドストーリーも用意していませんでした。結果として検索経由の新規流入がほとんどなく、広告だけに新規獲得を頼る状態が続いていました。逆に、記事だけを量産してブランドストーリーや商品ページの導線整備を後回しにしているケースもあります。この場合は認知は取れても、信頼と行動の段階に接点がなく、記事から購入への転換が伸び悩みます。
3つの接点は役割が違う分、制作体制も揃える必要があります。記事制作を外注する場合でも、比較記事のような理解フェーズのコンテンツと、ブランドストーリーのような信頼フェーズのコンテンツでは、必要なライティングスキルや取材の深さが異なります。
契約形態ごとに何を任せられるかは、以下の記事で詳しく紹介しているので外注先を選ぶ際の参考にしてください。
コンテンツマーケティングの外注費用と相場は?契約形態別に比較
自社の詰まりを診断してから投資配分を決める
投資判断の前に確認すること:
- 4段階のうち、どこで最も人数(流入・接触)が減っているか
- その段階に対応するコンテンツが、記事・ブランドストーリー・商品ページのどこにも存在しないか
- 今の広告予算は、その詰まりを解消しないまま投下され続けていないか
コンテンツは広告の代替ではありません。広告が連れてきた見込み客を、理解・信頼の段階でつなぎとめ、行動まで導くための土台です。土台がないまま広告費だけを増やしても獲得単価は上がる一方で、コンテンツへの投資は後回しにされがちです。
まず着手すべきは、施策を1つ選ぶことではなく、4段階のどこで自社が詰まっているかを診断することです。認知は取れているのに理解で離脱しているのか、理解は進んでいるのに信頼で止まっているのか。詰まっている段階が分かって初めて、記事を増やすべきか、ブランドストーリーを整備すべきか、商品ページの導線を見直すべきかという投資配分の判断ができます。
広告費とコンテンツ費用を分けて考えるのではなく、ファネル全体の設計として投資配分を決めることが、広告依存から脱却する現実的な一歩になるでしょう。
よくある質問
Q1. D2C・ECのコンテンツマーケティングで最初に見るべき指標は何ですか?
個別の指標より先に、購買行動を認知・理解・信頼・行動の4段階に分け、自社がどの段階でユーザーが離脱しているかを診断することが出発点です。段階ごとに効きやすいコンテンツの種類が異なるため、詰まっている段階が分からないまま施策を増やしても効果が出にくくなります。
Q2. 広告費を増やす前にコンテンツに投資すべき理由は何ですか?
運用型広告による新規獲得の単価は年々上がる傾向にあり、CPAとLTVのバランスが崩れると広告を出すほど利益が薄くなります。広告で連れてきた見込み客が理解・信頼の段階でスムーズに進めるかどうかはコンテンツの設計で決まるため、広告の効率そのものを底上げする土台としてコンテンツが必要です。
Q3. 記事・ブランドストーリー・商品ページはどう役割分担すればよいですか?
記事(オウンドメディア)は認知と理解の入口、ブランドストーリーは信頼を醸成する役割、商品ページは行動(購入)に進めるための最終的な接点というように、ファネルの中で担う役割が異なります。3つを同じ役割だと捉えて偏って投資すると、いずれかの段階で離脱が起きやすくなります。
