ECメディアに立ちはだかる「売上かブランドか」の二項対立
ECサイトの読み物やブログをめぐる議論は、多くの場合「売上に貢献する役割を果たせ!」と数字で追い立てる立場と、「ブランド認知のためだから売上は問いません」のどちらかに寄っています。実務では、どちらの立場かによって、コンテンツ制作の予算が異なり、コンテンツ制作の継続寿命に大きく関わっています。
売上目的でメディアを運用すると、担当者は毎月のCVやクリック数に追われ、企画そのものが限定され、SEO対策の記事が増え、読み物としての厚みが失われ、結果的に読者からも検索エンジンからも評価されにくくなるといった連鎖が起きがちです。
反対にブランドのためと割り切ったらそれはそれで、今度は経営側から「そのメディアは事業の何に効いているのか」と問われたときに答えを持てなくなります。継続の稟議が通りにくくなり、担当者の交代や予算縮小のタイミングで真っ先に止められる対象になります。
この二項対立が厄介なのは、どちらの立場にも一理あるように見える点です。実際にEC・小売企業が運営するメディアを見比べてみると、役割の置き方は媒体ごとにまったく違う濃度で設計されており、正解は1つに決まっていないことがわかります。
メディアの役割の濃度は、媒体ごとにまったく違う
EC・小売企業が運営する6つのメディアを見ると、商品との距離の取り方も、購入への橋のかけ方も、媒体ごとにまったく違う濃度で設計されていることがわかります。役割は1つの正解に決まっているのではなく、事業やブランドの文脈に応じて選び取るものです。
ここでは、私がオッと思ったECサイトメディアを紹介します。
山と道JOURNALS:商品説明より先に哲学を語る
アウトドアブランド山と道が運営するJOURNALSは、道具の説明より先に、なぜこの道具が必要なのかという歩き方の哲学を語ることに徹しています。数百本規模のハイキング記や、創業1年目の頃を振り返るロングインタビューまで公開し、商品ページへの直接的な接続よりも、ブランドの世界観そのものを厚くする方向に振り切っています。
となりのカインズさん:商品と関係のない企画で読者を集める
ホームセンターのカインズが運営する「となりのカインズさん」は、自社商品と直接関係のない雑学企画も含めて「ホームセンターを遊び倒す」ことを掲げ、開設から5か月で月間100万PV、直近は月間700〜800万PVという規模の検索資産を築いています。ブルーシートの開発秘話のように自社商品を掘り下げる記事も混在させながら、企画力そのもので媒体を成立させています。
よきマガジン(わざわざ):ECリニューアルと同時にメディアを本体に据える
パンと日用品の店わざわざが運営するよきマガジンは、ECサイトをShopifyへ移行する大リニューアルと同じタイミングで創刊されました。カテゴリも商品分類ではなく「食」「衣」「住」「人」「健康」「社会」「長野」という生活の全域で切られており、読みものをサイトの付属機能ではなく本体として扱う設計です。
犬猫生活のnote:自社ドメインを持たずに開示だけで伝える
ペットフードD2Cの犬猫生活は、自社ドメインでメディアを構えるのではなく、noteのマガジン機能を使って商品の開発理由や利益の使い道までを開示しています。上場発表の記事でも株価や成長戦略ではなく動物福祉への取り組みを語るなど、プラットフォームの豪華さではなく開示の順番と一貫性で信頼を作っています。
無印良品 IDEA PARK:要望と商品化を直結させる
無印良品のIDEA PARKは、顧客からの商品リクエストとその回答をすべて公開するQA型のメディアです。2026年8月時点で84,020件のリクエストが蓄積し、2014年の設置から2年で1万件を超えるリクエストが集まり、200点以上の商品が見直された実績があります。声がそのまま商品開発に接続される、橋の濃度が最も高い設計です。
MISO ZINE:顧客の質問を記事と購入導線に変える
弊社が運営する味噌の直販EC「MISO ZINE」は、店頭やメールで実際に受けた質問を記事の元ネタにし、読者の疑問が「じゃあどれを買えばいいの」に切り替わる位置に購入ボタンを置くことを狙って設計しています。ただし、この設計思想を持っていることと、実際に橋が機能しているかどうかは別問題だということが、次の自社実測でわかりました。
dott-miso.shop/blogs/misotopics
この6媒体を含む観察記録は、参謀室が運営するオウンドメディアのキュレーションサイト「オウンドメディアオタク」にも掲載しています。
ECサイトのメディアは、コンテンツと商品の架け橋が無ければ何も起きない
役割をどう置くにせよ、記事から商品への橋が実装されていなければ、読者の行動は記事の中で止まります。自社の味噌EC「MISO ZINE」の2026年8月の実測では、検索で表示をとっている記事ほどこの橋が細いという逆説が起きていました。
実測①:検索はとれても売れない
MISO ZINEで最大の集客記事は週1238クリック、平均掲載順位3.1位と、検索では明確に勝っています。しかしこの記事の本文内にある自社商品へのリンクは2本だけです。「SEOでは勝てているのに売上につながらない」原因は、集客力の不足ではなく、記事から商品が地続きかどうかということです。
この「検索では勝てているのに売れない」という構造そのものについては、ECブログの効果検証(ECサイトのブログは効果があるのか)で導線設置率という診断軸から詳しく扱っています。
実測②:壊れていた場所はどこか
GA4とShopifyのデータをもとにファネルを段階ごとに実測すると、商品ページからカート投入への遷移率は16%で、EC全体の目安とされる5〜10%を上回っていました。つまり、商品も商品ページも悪くありません。
見直すべき数値は「記事から商品ページへの遷移」(約4%)と「カートから購入」(当時、約7割が離脱)の2箇所です。カートからの離脱は、当時の送料無料ラインが1万円だったのに対し客単価が3,995円という設定の噛み合わなさが要因の一つでした。送料無料ラインは、この数値をみて見直しました。
実測③:測るべき指標を変えたら数字が動いた
それまで追っていたKPIは最終購入数で、週に0〜4件しか発生せず、施策が効いたのかどうかを判定できませんでした。そこで「記事から商品ページへの到達数」という中間指標に切り替えたところ、導線改善の投入前は1日1.2件だったのが、投入後は1日5.0件へと約4.3倍に伸びました。
最終購入数だけを見ていたら、誤差として見過ごされていた改善数値です。
結論:メディアの役割を決めるのではなく、接続を設計する
6媒体の観察と自社の実測を重ねると見えてくるのは、ECのメディアは「役割を固定しなければならない」という前提そのものを疑うということです。メディアの役割の濃度は媒体ごとに違ってよく、必要なのは商品とコンテンツがどのように「地続きになっているか・共存しているか」の設計です。
図解: 編集の独立性 × 購入導線の強さで見る、6媒体のポジショニング
どの位置にいても、それ自体は問題ではありません。
山と道JOURNALSやよきマガジンのように独立性を高く保ち、商品とコンテンツの距離を離すのも、MISO ZINEやIDEA PARKのように独立性を下げてでも商品とのつながりを近くする選択も、観察した6媒体ではどちらも機能しています。
問題になるのは「自社がどこにいるかを把握しないまま商品との設計を後回しにすること」だと感じています。
段階に応じてどんな記事にどんな商品とどう距離をとるかの設計順序は、D2C・ECのコンテンツマーケティングの4段階ファネル設計(D2C・ECのコンテンツマーケティング)でも扱っているのでぜひご覧ください。
ECサイトのメディアを、事業全体のどこに位置づけるか
メディアの役割設計は、施策単体の巧拙ではなく、事業全体の中でメディアがどの機能を担うかという配置の問題です。集客・接客・顧客サポート・商品開発のどこに橋を伸ばすかを決めて初めて、役割の濃度も橋の太さも合理的に決まります。
集客の入口として置くなら、山と道JOURNALSのように検索エンジンや口コミで見つかることを優先し、商品との架け橋を薄くしても問題ありません。接客の延長として置くなら、実際に届いている質問を記事化し、疑問が解けた瞬間に購入ボタンが視界に入るようにする必要があります。顧客サポートや商品開発の入口として置くなら、IDEA PARKのように要望の進捗が見える形で公開し、声がそのまま次の商品に接続される仕組みを作ることになります。
大事なのは、いずれか1つの機能に決め打ちすることではなく、事業のどのフェーズでメディアに何を担わせるかを、経営の意思決定として言語化しておくことです。役割が言語化されていれば、担当者が変わっても、KPIが変わっても、メディアと商品の接続だけは切れずに残ります。
よくある質問
Q1. ECのオウンドメディアは、売上に直結する役割を必ず持たせるべきですか?
必ずしもそうとは限りません。観察した6媒体では、山と道JOURNALSやよきマガジンのように商品説明より先に哲学や生活の姿勢を語り、購入への橋をあえて薄くしている媒体もあります。重要なのは役割の濃度をどこに置くかを自覚して設計することで、橋を濃くすることだけが正解ではありません。
Q2. 検索順位やクリック数は良いのに売上が増えないのはなぜですか?
自社の味噌EC「MISO ZINE」の実測では、週538クリック・平均掲載順位6.1位という最大の集客記事でも、本文内の自社商品リンクは2本だけでした。検索で勝てていても、記事から商品ページへの橋が細ければ、読者の行動は記事の中で止まってしまいます。
Q3. オウンドメディアの効果を測るとき、どの指標を見ればいいですか?
最終購入数だけを追うと、週0〜4件のような少ない件数では施策の効果を判定できません。自社の実測では「記事から商品ページへの到達数」という中間指標に切り替えたことで、導線改善前後の変化(1日1.2件から5.0件、約4.3倍)を統計的に確認できました。最終指標に加えて、その手前の中間指標を持つことをおすすめします。





